農業分野において深刻な問題となっている後継者不足など様々な問題解決を目指した取組みとして近年注目されている「スマート農業」
スマート農業とはどんな農業なのか?具体例は?始める前に知っておきたいことは?など、この記事ではスマート農業の概要とブランド化に向けた取り組みについて紹介したいと思います。
野菜の価格も高騰している中で、より安定した美味しい野菜を頂くことはできるのか?!今後の野菜選びやビジネスのひとつとしてスマート農業を今のうちから視野に入れてみるのはどうでしょう?
スマート農業とは
スマート農業の「スマート」とは「賢い」という意味。平成25年に農林水産省に設置された「スマート農業の実現に向けた研究会」(以下、委員会)より発足しました。農林水産省によると「ロボット技術やICT※を活用して超省力、高品質生産を実現する新たな農業」が「スマート農業」として定義されています。
委員会は、これを実現するため、スマート農業の将来像と実現に向けたロードマップやこれらの技術の農業現場への速やかな導入に必要な方策を検討するために設置されました。
※ICTとは
Information and Communication Technology の略で「情報伝達技術」と訳されます。ITよりも情報や知識の共有に焦点を当てた用語で、現在ではITからICTの活用のほうが活発になってきています。
具体的には、収穫や雑草の処理を自走式の農業機械の活用や、荷物の積み下ろしのような重労働をアシストスーツの活用により軽労化させたりといった大規模生産、省力化の実現へ向けた取り組み、ベテランの農業経験者の勘や経験を、気象データやこれまでの研究結果とリンクさせてデータベース化し、農業経験のない人でも経験者同様の品質の作物を作れるようにする取り組みなどがあります。
これらの取組みにより、新しいビジネスとして農業を取り入れやすくすることもできますし、女性や高齢者でも負担が少なく農業に関わりやすくなるでしょう。
コストは?いつ普及するの?スマート農業の課題
スマート農業の市場規模は、2015年には約97.2億円から2016年には104億2千万円と拡大傾向にあります。2023年には333億3900万円にまで拡大するとの調査結果もあり、普及は確実に進行していくでしょう。
しかし、誰にでも農業ができるようになったり成長が見込まれるメリットはありますがコンピュータ技術を使った農業と聞くと、コストや機械操作の難しさなど、様々な課題が思い浮かびませんか?
実際に、機械化のためのコストはかかります。現在よく田畑で見かけるトラクタや田植え機でさえ、販売価格は数百万~1000万円以上。稼働日数は年に数日しかありませんから、決して安い買い物ではありません。
こういったコストがなぜかかるのか。それは、日本の農業市場が縮小傾向にあるからです。
平成23年現在の農業就業人口は前年に比べ5千万人減の260万1千人となりました。そのうち65歳以上は60%、75歳以上は30%の割合となっており、現在若手がいかに少ないか、この先さらに大幅に減少するであろうことは容易に想像できます。
総農家数は平成25年時点で215.5万戸となっており、農業就業人口とあわせて見ると単純計算にはなりますが、1つの農家に2人もいないのが現状。その上高齢者がほとんどを占めているとなると、高価な機械を新たに導入しようとする農家は少ないのではないでしょうか。
また、機械の使用方法やメンテナンスに必要な知識やサポートを行うための人材も同時に必要となってきます。将来的にはメリットにつながる点も、今現時点での導入にはどうしても躊躇してしまう農家も少なくはありません。
今後スマート農業に関する技術のコスト削減をどう進めていくのかが注目ポイントとなります。
得するのは誰?スマート農業の将来像
課題もまだ多くあるスマート農業ですが、その普及によって多くのメリットが期待されています。平成26年に委員会が中間のとりまとめとして提示している、スマート農業の普及により期待される将来像には以下の5つが挙げられています。
- 省力化・大規模生産を実現
- 作物の能力を最大限に発揮
- きつい作業、危険な作業からの開放
- 誰もが取組みやすい農業を実現
- 消費者・実需者に安心と信頼を提供
これらを実現に向けて、農業機械メーカーや情報通信にかかわる業界、ロボット研究など様々な分野の農業への参入が活発化。
これまでの家族経営からビジネスとして農業に取組むベンチャー企業などの参入により、これまで課題となっていた農業従事者の所得も向上が見込まれます。
各業界の取組み
スマート農業の普及、拡大に向けて各業界が様々な取り組みを行っています。
情報、通信、電気メーカーは様々な農業クラウドサービスを提供しています。農業クラウドサービスとは、農作物の生産や流通、販売管理など、農業経営にかかわる業務を支援するクラウドサービスのことを言います。
農業クラウドサービスはスマート農業には不可欠で、現在すでにGIS(地理情報システム)を活用した農業情報管理システムや、栽培計画や生産工程を共有できるサービスなどが展開中。
また、自走式農業機械に欠かせない技術は自動車メーカーが担っており、トヨタ自動車は自社の生産管理手法や工程改善のノウハウを農業にも活用できるよう情報提供を行っています。
同様に製造分野での工程管理手法を農業に生かし、生産性の向上を図る取り組みが行われています。
農業におけるこれまでの経験者の技術のデータベース化などの分野ではIT企業の活躍も重要です。
スマート農業への付加価値とは?
スマート農業の目指す姿として、誰もが農業をできるようになることが挙げられるとともに、新しい技術や機械の価格を低下させるためには、情報の共有化は必須。
そのため、同程度に高品質な作物が栽培されると同時に、作物にどう付加価値をつけるかということがこれからの農家、企業の力のみせどころとなるのではないでしょうか。
宮城県の「食べる宝石」とよばれるミガキイチゴは誰にでもブランドイチゴが栽培できるようにというコンセプトで、IT技術を活用し若手の代表者が栽培している高級イチゴです。1粒1,000円模するイチゴであるにも関わらず、注文は殺到しているとのこと。
消費者の本物志向が進む中、肥料に何を使ったのか、どんなこだわりがあるのかといったコンセプトが消費者の判断ポイントにも繋がります。
美味しい、安定した生産が今後当たり前になったとき、ただ単に甘ければよい、美味しければよいだけではなくて、誰にでも作れるからこそのその企業にしかない職人魂のような意識が付加価値を生み出すのではないかと私は思います。
美味しい野菜が食べたい
最後に、消費者として美味しい野菜を食べるためには何を基準にスーパーで野菜を選ぶのが良いのか?
身体のためには無農薬の有機野菜が良いといわれることも多いですが、スマート農業の普及には農薬や化学肥料の使用も生産性向上のために必要になってくるでしょう。
高品質で栄養価の高い作物は、昔より野菜の栄養価が落ちてきているといわれている今日、需要が高まると同時により積極的に取り入れることをすすめられると予想されます。
スマート農業はこれまでのプロの知識や技術の集大成でもあるため、てまひまかけた農業ではないかもしれませんが、これまでてまひまかけてきた経験、技術、知識の詰まった作物であることには変わりありません。
スマート農業の普及には、農業とはこうでなければならない、身体のためには化学肥料は良くないなどの消費者側の意識も大きく変えていく必要があるように感じられます。
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