内閣府が提唱する、「ソサエティ5.0」という言葉をご存知でしょうか?
狩猟社会から始まった我々の暮らしは、時代の変化とともに大きく進化してきました。
現在の社会は「ソサエティ4.0」、情報社会と呼ばれています。
情報社会の次のフェーズとなるソサエティ5.0において、英語はどんな役割をするのでしょうか?
また、英語を学習する意味とは??
英語を指導する立場から、様々な考えを述べたいと思います。
コンテンツ
ソサエティ5.0とは?
ソサエティ5.0の意味と課題
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
引用:内閣府ホームページ『Society5.0とは?』(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)
ソサエティ5.0とは、AI(人工知能)などの仮想空間と、我々が生活する現実空間とをうまく融合させて、経済や社会の問題を解決することを目指す、あくまで人間中心の社会のあり方のことです。
現在の情報社会は、昔と比べるとかなり高度に発展している社会のように見えます。
インターネットの発達によって、世界のどこにいてもあらゆる情報を得ることができるようになりました。
しかし、実はその情報を入力しているのは人間であり、Googleなど様々な情報を提供してくれるツールは、人間がインプットした情報を表示させているに過ぎないのです。
分かりやすいところで言えば「誤字脱字」、深いところで言えば「個人による認識の違い」といったヒューマンエラーが発生してしまいます。
ソサエティ5.0の社会のあり方
ソサエティ5.0の社会では、従来の「人が機械に指令を与えるだけのスタイル」をやめて、「人や現実の情報をAIが解析してフィードバックするスタイル」を実現することが狙いです。
例えば、車の自動運転がその代表例で、周囲の道路状況をセンサーが検知して、そのデータをAIが解析して適切な動作を判断することで、車に速度やハンドル操作などの指令を与えるといったことが可能になります。
このように、人とAIの融合とも言える社会のあり方が、ソサエティ5.0です。
少子高齢化、過疎化、情報問題の解決を目指す
ソサエティ5.0が実現すると、様々な社会問題を解決できる可能性があります。
例えば…
- 予防検診、介護ロボット導入による健康寿命の延長
- バスの自動運転による過疎地域での交通の利便性向上
- AIによる情報の最適提案、ヒューマンエラーの防止
…などのメリットが挙げられます。
つまりは、高齢者や体が不自由な人のフィジカルな部分をサポートしたり、人が少ない地域でも都会と同じ機能を提供してくれる平等性、そして何より、膨大な量の情報から人が求めているものを自動的に選別してくれる、サイバーな部分でのスマート化が可能になるということです。
YouTubeの「あなたへのおすすめ動画」はそのいい例ですね。
今までの視聴履歴や傾向といったデータから、AIが自動的にあなたの観たそうな動画を選んでくれている訳です。
- ソサエティ5.0は人とAIが融合するような社会
- 様々な社会問題の解決を目指す
ソサエティ5.0時代における英語
言語の違いが意思疎通の妨げとならない世界
さて、そんな理想的とも言えるソサエティ5.0ですが、実際に実現するとすれば、「英語」はどのように変化するのでしょうか。
私は正直、
「人の意思とAIが直通するなら、言語は不要になるのではないか?」
という不安を感じました。
例えば海外で電車に乗るとき、ひと昔前ならばチケット窓口に行って「どこに行きたいか」「何人で乗るのか」「何時に出発するのか」を言葉で説明しなければなりませんでした。
しかし現在では、人と会話しなくてもチケット券売機で手続きができ、特急の切符だって購入可能です。
同様に、もしも今以上にAIの翻訳機能が発達して、人が必要とする情報をその人の母国語で提供してくれるのなら、果たして英語をはじめとする言語は必要なのか。
言語の違いが意思疎通の妨げとならない世界と言えば理想郷のように聞こえますが、人と会話する必要がなくなる、というのは、なんとなく寂しい気もします。
英語教育の広がりと平等化
ただ、英語の指導者として活動する私にとって、良いと思ったメリットもあります。
それは、「過疎地域でも平等な英語教育を受けられること」です。
2020年までに小学校で英語が必修科目化することを前に、多くの学校が最新の英語教育方法を授業に取り入れ始めています。
電子黒板(スライドを映すスクリーンのような物)を使った授業や、タブレット端末を使った英語教材などが導入され、ここ数年で大きく進化してきました。
しかし全ての学校の授業が同じように進化しているかと聞かれれば、まだまだ足りない部分はあるのが現状です。
人が少ない過疎地域では、必然的に子どもの人数も、教員の人数も少ないため、都心部と比べて英語を実践的に教えられる人材も機会も足りません。
そこで、もしもソサエティ5.0が実現して、日本中のどこからでも同じ質の英語教育が受けられるようになればどうでしょう。
おそらく、過疎地域に住む子どもたちにとっても大人にとっても、助けになることは間違いありませんし、もしかしたら「この村の子どもたちは、みんな英語が話せます!」といったグローバルな過疎地域だって生まれるかもしれません。
実はそういった取り組みがすでに実行されているところもあります。
詳しく知りたい方は下記リンクからご覧ください。
参考:『英語特区』(ベネッセ教育総合研究所)https://berd.benesse.jp/up_images/magazine/VIEW21_board_2015_06-toku_2.pdf
- AIが発達すると、言語自体が不要になるのでは?
- 日本のどこにいても最新の英語教育が受けられるようになるかもしれない
英語を学習する意味と役割
ポケトークと通訳者
「ポケトーク」をご存知ですか?
日本語を英語や他の言語に、他の言語を日本語に通訳してくれる、自動翻訳機です。
CMの影響も凄まじく、私の生徒の中学生たちは「ポケトーク買うから、英語勉強しなくても良い!よかったー!」と言う子もいて困っています。
皆さんなら、ネイティブスピーカーと話すとき、ポケトークを挟んで会話するか、直接やりとりをするか、どちらが良いですか?
どちらも一長一短だと思いますが、私は「自分の英語は自分で作って伝えたいタイプ」ですので、たとえポケトークが優秀なデバイスだったとしても、機械が作った翻訳は疑ってしまうかもしれません。
ただ、仮にポケトークのような自動翻訳機が「人の感情」「言葉のニュアンス」までデータとして取り込み、普通に話しているのと変わらないくらいの役割を果たしてくれるなら、通訳者にとって脅威だと思います。
AIとイングリッシュスピーカー
そんな最新機器の登場を受けて、「英語を学習する意味」を改めて考えると、「AIとイングリッシュスピーカーの役割が似ている」ことに気がつきました。
AIによって、人の行動をデータ化して蓄積するサイバー空間が人と繋がるのと同様に、「英語がわからない人」と「英語しかわからない人」をつなぐのが英語話者(通訳)だとすれば、英語ができる人はサイバー空間的な役割ができるのではないでしょうか。
日本語が分かる我々は、無意識のうちに相手が伝えたい内容を日本語で汲み取り、適切な返答をしています。
そこに機械が介入する余地はなく、「人間関係」「表情」「声のトーン」「身ぶり手ぶり」といった情報をキャッチした上で、自然な会話をしますよね。
同様に、英語が分かる人は、ネイティブスピーカーとも同じことができます。
相手の英語を正確に理解して、言葉以外の様々な要素を考慮した上で、適切なコミュニケーションをとるのです。
このように考えると、日本語と英語が分かる人は、日本人とネイティブスピーカー、さらには「英語が分からない人」と「英語しか分からない人」を人種に関係なくつなぐことができると思いませんか?
つまり、ソサエティ5.0における「AI」の役割と似たようなことができるわけです。
だからこそ、英語を学習する必要性は無くなりませんし、むしろ今後「英語も分かる人」の需要は大きくなると思われます。
- ポケトークに頼りきるのはよくないが、翻訳性能が向上すると脅威になる
- 日本語も英語も分かる人は、ソサエティ5.0でのAIと同じ役割ができる
人と人をつなぐ英語の勉強方法
TOEICスコアによる英語力の数値化
そんな英語を学習する方法、皆さんはもうご自分で確立されていますか?
英語を勉強する方法は人それぞれ、多種多様ですから、絶対にこれ、と言うものはありません。
しかし、ただ勉強するだけでは中々モチベーションは上がらないものですから、どんな勉強方法であってもTOEICなどの目標があった方が良いでしょう。
私は、英語力は決してスコアで測ることは出来ない、と考えています。
たとえTOEIC990点を持っている人がいたとしても、その人が英語を使ってネイティブと全く遜色ないくらいに会話ができるとは信じません。
しかし、スコアをおしなべて客観的に見たときに、やはりTOEIC高得点取得者には英語ペラペラの人が多いのは事実です。
その意味で、TOEICスコアは「英語力の目安」としては有効でしょう。
TOEICスコアを用いて英語力を数値化することで、例えば「TOEIC〇〇点以下の人には、優しい英語を使った文章を表示させよう」とか、「次の目標点数に応じた英語教材をおすすめしよう」など、AIが素敵な提案をしてくれるかもしれません。
よければ下記リンク記事(当サイト内の記事に飛びます)から、私のおすすめ英語学習方法がご覧いただけますので、よろしければどうぞ。
「言わなくても分かるでしょ」では伝らない
AIは急速に発達していますが、人の感情を汲み取るなどのフィジカルな部分では、まだまだAIより人間の方が優れています。
特に日本語は「暗黙の了解が多い言語」と言われ、「言わなくても分かるでしょ」という前提で会話することが多いです。
例えば、「お茶飲んだ?」と尋ねられれば、普通「自分自身のこと」だと思いますよね。
一方、英語では、”Did you drink the tea?“のように、”you“という主語を入れないと誰の話をしているのか分からないのです。
この言語上の特性から、日本人学習者には「文型を意識せずに英語を話そうとする人」が結構います。
具体的には…
- 単語のみ、または単語を羅列して話す
“Want! This! This! Please!”(これくださいのような意味)など - 日本語の順番通りに英語を当てはめて話す
“This shop a flower has.”(この店には花があるのような意味)など
…このように話すことを指します。
実際に私が英会話を指導させていただいている生徒さんでも同様の方がおられました。
ご本人も、「ノリ」だけで英語を使っているのが嫌だとおっしゃっていたため、「主語+動詞+目的語」の語順を改めて定着させ、練習を積み重ねたところ、”This shop has a flower.”と正しく話すことを意識できるようになってきました。
日本人同士ならば、多少適当に英語を話していても汲み取ってくれることが多いですが、ネイティブスピーカーや現地の人々に「言わなくても分かるでしょ」は通じません。
郷に入っては郷に従え、英語を話すときは、言いたいことを全て明らかにして確実に伝えるようにしましょう。
AIをうまく活用する人間中心の社会へ
AIは、サイバー空間に蓄積された人の行動パターンや物体の動きのデータを解析し、我々に最適な情報を提供してくれます。
情報に埋め尽くされた現代社会において、必要な情報だけを取捨選択してくれることは、これ以上ないくらい役立つことです。
しかし、AIに頼りっぱなしになるのもよくありません。
やはり人対人の部分では言葉を話す人間が必要ですし、国境を越えたコミュニケーションを実現できるのは、やはり英語です。
そんな英語の勉強をするときには、自分で目標スコアを設定して、達成するのに必要な教材をAIに提案してもらえると非常に便利です。
そこから更に勉強を継続して目標をクリアしたとしたら、今度は人との実践的なコミュニケーションを試すことで、人にしかできないことを訓練していくことができます。
そんなふうに、AIと人間、どちらか一方だけになるのではなく、場面に応じて使い分けられると良いですね。
AIのいいところと人間のいいところを組み合わせて、より良い社会を目指しましょう。
- 英語力の目安としてTOEIC高スコアを取得することは有効
- 日本語と違い、英語は言いたいことをはっきりと明確に伝えることが大切
- AIと人間が利点を組み合わせられる社会づくりをしていきましょう。
まとめ
農耕社会から進化してきた我々の現在の情報社会。
情報にあふれ、たとえ偽情報だとしても瞬く間に世界中に広まってしまうこの世の中で、今度は「ソサエティ5.0」という次のフェーズに移行しようとしています。
AIが人の代わりに考えて、最適提案をしてくれる点はこの上なく便利です。
しかし、AIに頼りすぎて、例えばポケトークのようなデバイスにコミュニケーションを依存してしまうと、いよいよ人間の出る幕が無くなります。
だからこそ、英語を使えるように努力して、人と人をつなぐ役割を果たせる人材になることが、今後のソサエティ5.0における英語の役割だと思います。
あくまで人間側がAIをうまく活用して、お互いに協力し合えるような社会を、ぜひ実現しましょう!
マコト
ソサエティ5.0が本当に実現すると、英語を話す必要なんて無くなるのでは…?
きちんと調べる前は、AIが人間を乗っ取るような世界を想像してしまい、言語が不要になる不安に駆られていました。
しかし、あくまで「人がAIを活用する人間中心の社会」を目指すことを知り、むしろ英語を話せる人の需要が上がるかもしれないと、今では期待を寄せています。
日本中の子どもたちに平等な最新の英語教育を。
私が願うのはそんなところです。
コメントを残す